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満月の夜に彼女はやってくる。

その波打つ美しい髪を従えた均整の取れた妖艶な身体で私を誘う。

「こんばんは。マスタング大佐」





夜に紡ぐ赤色の夢。




私の部屋の窓を外から。
彼女はノックし、開けてくれと微笑む。
満月の夜は私はもはや習慣となったように不審に思うことも無く窓を開けるのだ。


春を待つこの季節の夜の大気は部屋着のまま窓を開け放つにはまだ寒い。
彼女を早く招き入れて窓を閉めてしまおう。そう思っていたのに。
月明かりを反射して光る彼女の、どこか猫のような鋭い瞳が余りにも魅力的で。

見つめる私の視線に気づいた彼女は、
中に入れるよう催促するわけでも、何かしらの反応を示すわけでもなく
ただ私を柔らかく見つめ返す。しかしその眼光は緩むこともなく。


「・・・・入りたまえ」
「ありがとう」

この欲に抗うすべを私は知らない。






彼女が何者なのか、何一つ知らない。
名前も知らないし、職業も、何処に住んでいるのかも知らない。
街中の娼婦かもしれない。
しかし彼女は金を要求してくることは一切無く、そうでなくてもその瞳は彼女が只者ではないことを語っている。


何の話をする事も無く彼女はベットに向かい、その場に来ていたコートを脱ぐ。
それを縁に掛けるとこちらを向いて視線を投げかけてくる。
彼女は常に微笑んでいて。しかし、その微笑みは私を誘い込もうとする邪悪な微笑だ。

「マスタング大佐、今晩はどうしてくれるのかしら」

上着も、その場に脱ぎ落とした。






かつては彼女に名前を聞いてみたりもした。
この魅力的な彼女が何者なのか知りたくて。

しかし彼女は笑って、

「色欲」

と応えただけだった。

からかわれているのだと渋い顔をする私の頬をなで上げ、

「酷いわぁ、本当なのに」

と首筋に吸い付く。



今ではそれが、その通り。本当なのだと思っている。
色欲、ラスト。それが彼女の名前だ。

服を少しずつ脱がしていくとあらわになる彼女の肢体。
もう何度目かというのに、女との性行為など幾度となく経験しているにもかかわらず、
若い青年のような、抑えようも無い欲情に駆られるのだ。
ここまでの女は他にいない。

彼女は私の欲を誘い、そして自分の欲を満たす。



豊満な胸の隆起を撫で、揉み上げ、時にその頂点を口に含む。
成熟した女の香を身体から溢れさせ、しかし少女のようにきめ細かな肌は、
どこに手を滑らせても私を楽しませてくれる。
前戯を楽しみながら、彼女も私のシャツの前ボタンを少しずつ開けていく。
暖かな彼女の肌に直接触れるたび、欲は募っていくのだ。

血のように真っ赤な唇は、決して化粧などではないと口付けてから判る。
触れる間に交わす口付けも唾液をまじわらす程に深いものになり、
熱を上げる速度に拍車を掛ける。
彼女の柔らかな唇に吸い付き、口腔に舌を差込み歯列を辿る。
絡んでくる舌の熱さは形容できない光悦で。

彼女が私の舌に噛み付き、私が彼女の唇に噛み付く。
互いの僅かに流れ出た血が唾液と共に交差するのを私は酷く愉快に思った。


互いに身体をすべる手はやがて互いの中心へとその目的を移動させる。






*

彼女の体内は柔らかく熱い。
気を抜けば精を搾り取られてしまうかもしれない。

お互いに吐く緩くも熱い息のなか、彼女はこちらをなにかの期待の目で見つめる。
私にはそれが何を求めているのか判っていた。


「さぁ・・・・」

彼女の細められた目に誘われるように。
私はベット際のラックの引き出しに入れていたナイフを取りだす。
鋭利に光を放つ刃先。



彼女について、ただひとつ、知っていることがある。



私は取り出したナイフを、それを笑って見守る彼女の腹に突き刺した。

「ああぁぁっ」

叫んだ瞬間、私を飲み込んでいる彼女の性器が絞まるのがわかり、
一瞬息を呑んだ。
それと同時にさしたナイフを引き裂くようにして抜く。

同時にザッと飛び散る赤い血液。


返り血を浴びながらも、ナイフを傍に置き、律動をはじめる。。
本来なら大きく切り裂かれた傷口は腹圧でさらなる出血を呼んだだろうに。
その最中には既に彼女の腹の傷はパリパリと光る錬成反応のなか修復されており、
後に残るのは与えられる快楽に満足げに声を上げる彼女と血を浴びた私、そしてシーツのみだ。

「ははっ・・すごいな・・・」

「いい・・・いいわ・・・マスタング大佐・・・」

彼女は微笑み、自ら腰を動かしてくる。
その動きに飲まれないように、自分の律動を繰り返す。

そして再び、傍らのナイフを拾い上げる。





彼女についてただひとつ知っていること。

彼女は何をしても死なないのだ。







鉄の匂いが充満する。
性交というその独特の匂いを遥かに凌駕した鉄の匂い。
私が浴びた返り血は最初の方はもう固まり掛けている。

右手に持ったナイフを何度も彼女に振り下ろす。
腹だけでなく。胸にも、脇腹にも。
首筋を引き裂いた時にはあまりの出血にシーツだけでなく部屋中が真っ赤になってしまった。

それでも間髪おかずに彼女の傷は修復され、血痕すら残らない。

私や部屋が血に汚れていく中で、



彼女だけは綺麗。



何度も刺したはずの、しかし何の傷すら残っていない白い腹に、
自らに滴る彼女の血で何かを描くようになぞる。

くすぐったさに身をよじる彼女に、笑いかけた。

「次は燃やしてみるか?」

腹に描いたのは自らが最もよく利用する錬成陣。
最後に彼女の腹にサラマンダーを描き、構築式を頭に思い浮かべる。
錬成陣の上に手をのせ、発動すべく意識を集中させた。


「熱いのは嫌いよ・・・焔の大佐」

彼女はそう言って錬成陣を描いた指先に口付けてきた。
その表情はしかし、燃やされてもなんら問題は無いという余裕の笑みで。


「・・・シーツまで燃やしてしまっては困るからな・・・」

頭の中の構築式を打ち消す。
と同時に錬成陣の真ん中を切り裂いた。叫び声と同時に修復されるからだ。
線の欠けた錬成陣はその時点で無効となる。

身体を燃焼させた後どんな修復がなされるのか興味はあった。
明らかに錬成反応である彼女の修復のされ方に、錬金術師である自分が興味を抱くのは当たり前だ。
しかし、彼女を燃やしたときにおまけとして付いてくるであろう
人の焼ける臭いと飛散した脂肪の不快感などを思うとその興味も減退してしまう。
返り血は残るのだ。それらも残るに違いない。

今は、快楽を。享楽を。
そう私は考えたのだ。



「あぁっ・・・はっあっ・・・大、佐・・・」

彼女が喘ぐのと同時に腹を切り裂く。自分の欲を追い、良い様に動く。
それは彼女にもまた悦楽をもたらしているようで、妖艶に微笑んでいた美しい顔は、
今は快楽に歪み、満足気に眉をひそめている。

私は彼女の中で逐情し、彼女もまた身体をひくつかせ、
頂点を迎えたようだった。





荒く息をつき、こちらを見て薄く笑う彼女を見る。
あれだけ切り裂いたのにも関わらず、その白い肌には何の汚れも無い。
私の付けた赤い印が首筋に残っているだけだ。

「マスタング大佐・・・すっかり、よごれてしまって・・・・
 シャワーかかってきたら如何?」

うっとりと自らの血で汚れた私の頬を撫でる。

「・・・・・君は美しい・・」

思わず言ってしまった、心からの賛辞。

「あら?お得意の口説き文句かしら」
「・・・・本当だ・・・」
「ふふ・・・貴方も綺麗よ・・・他人の血が似合うわ。」


すっと細められたその瞳に魅入られそうで。
そして何かしら全てを見抜かれそうで、私は目を逸らし、
ベットから抜け出た。

「シャワーを浴びてくる」

「ええ、またね、マスタング大佐」



シャワーから帰るといつも既に彼女はいない。

そしてあれだけ血まみれだった部屋もまったくもっていつも通りで。
自分に付着していた血もシャワーで洗い流してしまった。

彼女がいた、あの非現実的な空間はもう何処にも無く、
本当に現実だったのだろうかという考えさえ浮かぶのだ。



そして。

私はまた、次の満月まで彼女を待つ。


妖艶な笑みと強い眼光を持った瞳の彼女が。
窓を叩くのを。








「こんばんわ。マスタング大佐」











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えろごいりょくぷりーず


乾いた血を張り付かせながらの光景って微妙にまぬ(略)





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