お前は将来大総統になって平和な国を作るんだ。
戦争の無い平和な国。
もしかしたら軍隊はなくなるかもしれない。
警察力以上の軍事力は無い。
お前は軍服でなく、スーツを着て国民の前に立つ。
大総統でなくて大統領なのかもしれない。
みんな笑ってお前に手を振る。
お前を讃えて万歳する。
平和を有難う。肌の色に関係なく皆が笑う世界。
でも次の選挙がくればお前は退任して静かに暮らすんだ。
東部の静かな田舎で静かに余生を送って。
いままで忙しかった分休むんだ。
たまに俺も尋ねてやるから。お茶くらい出せよ。
「鋼のはロマンティストだな」
「・・・・・・・・・」
全部ロマン。
全部理想。
頭の中の理想郷。
夜中。
散々体力の尽きるまで貪り合ったお互いの体の体力は限界に近い。
まどろむ意識を、なぜか繋ぎとめて。
窓から差し込む月明かりが照らす自分の髪は光が透けていくのに、
彼の漆黒の髪は光を通しもしない。ただ反射して美しく光る。
「なぁ、アンタって汚い大人だな」
何かに耐え切れなくなって感情のままに呟く。
「オトナは誰でも汚いものだよ」
「俺はアンタみたいにはならないと思う」
「じゃぁ君はオトナにはなれないな」
低く笑う彼を見ていて無性に悲しくなってしまった。
俺はアンタのように滅私の人生を歩むことは無理だ。
いつまでも自分を通そうとするんだ。
「・・・・君は私みたいなオトナになっては駄目だよ」
優しく髪を撫で付ける手。癪だけど、凄く落ち着く。
彼の行動は全て人のため。神経をすりきらせてまで人のため。
彼は彼の犯した罪とこれから下される罰を自ら受け入れる。
それも人のため。
全ての汚濁を引き受けて。
「なんねーよ」
なれないんだと。
彼の覚悟の大きさに、打ちのめされそうになる。
自分には関係ない、と言い張るには彼はあまりにも身近すぎた。
彼のために、と模索すべきが、自分は只今わが道邁進中。
それを子供のように拗ねてみて。
「・・・・・・・ろくでなし」
「はは、もっともだ」
「・・・・・俺が・・・・・」
彼は、薄く笑って、俺の頭を抱くようにして撫でた。
泣きたくて仕方がなかった。
泣いて嘆いて喚いて地団太を踏んで。
ただ、それをするにはあまりにも自分は恵まれすぎていたから。
恵まれた自分には不幸を嘆く資格は無い。
それはあまりにもなにもない人々に失礼だ。
悪く言えば下を見る。よく言えば幸福と言う謙遜。
穴でも掘って叫びたい。
本当は泣いて嘆いて喚いて地団太を踏みたいと。