「ふふ・・・君は、本当に苦悶の表情が似合っている・・・」
誰もいない筈の深夜の司令官職務室。
本来一時の静寂に静まり返るはずのこの空間には、
一人の男の愉悦ともう一人の男の苦悶によって満たされていた。
部屋に断続的に響く淫猥な水音と稀に鈍く響く暴力の音とうめき声。
「聞いているのかね?」
さも楽しそうに身体の下にいる男に問いかけるも返事がない。
彼は襲い
来る痛みと快楽に耐え忙しない息を吐くばかりだった。
「返事は?ハボック少尉」
その笑みをまた深いものとし、男―ロイはもう一度問いかけた。
「・・・yes,sir・・・」
荒い息の中に微かに聞こえたその声に、ロイは満足だった。
畏怖を、と偽り貴方は。
最早何故だと疑問を唱えることも出来ずに。
一人の男の気まぐれで時折繰り返される凶行とも取れる行為は続いている。
執務室の椅子に腰掛けた彼は足を組んだまま、軍服の上着だけを脱ぐように命令するのだ。
男の裸なぞ見ても面白くもない。
彼は常々そういいながらハボックに暴力的な行為を強要している。
そしてその言葉通りに必要以上の着衣を脱がせることもなく事に及ぶのだ。
最早日常と化しつつある行為に、ハボックはただ黙って上着を脱ぎ、
傍にあったソファーの上に投げるようにしておく。
黒のTシャツ一枚では肌寒い気もするがそんなことに留意している場合ではないのだ。
「今日は、何をお望みで?大佐」
慇懃無礼気味に言ったはずなのに。
ロイの口は弧を描き、むしろ機嫌よさげに目を細めた。
「生意気なのは嫌いではないよ。少尉。」
「・・・・」
「こっちにおいで」
優しい口調で。愉快そうな目で。
しかし彼がそんな目をするときの方が恐ろしいと、ハボックは嫌という程に知っていた。
小さく了承と服従の台詞を吐き、執務机の反対側へと回った。
「・・・奉仕でも?」
「よくわかってるじゃないか」
「・・・・・アイ・サー」
ロイは組んでいた足を解き、その代わり机に頬杖を付いた。
跪き、己のスラックスのファースナーを下ろす金髪の頭を愉快そうに見下ろす。
取り出したロイ自身をまずは手で刺激を加える。
何の反応も表していないものを扱くのは案外やりにくいものだ。
自分が自慰する要領で。ハボックは頭でそう考えながら手を動かす。
熱い彼自身は何度目かとはいえ触っていて気持ちの良いものなどではない。
手から伝わる嫌悪感を必死に耐えているのだ。
早く、終わってくれ。
そう願いながら、ハボックは手を使う。
「まどろっこしいな、少尉。口でやりたまえ」
何の変化も見せることのない表情でロイは言い放った。
瞬間屈辱か悔しさかに唇を噛むハボックの表情も見逃さない。
「・・・・」
「喰いちぎっても構わないよ」
揶揄するように(いや、揶揄しているのだ)言うロイに。
ハボックは何も返さずに彼自身を口に含んだ。瞬間に催す吐き気に耐え、
舌を使って筋を辿る。
喰いちぎってやりたいと何度思ったことか。
しかし、そんなことをすれば同時に焼死体がひとつ出来上がるだけ。
自分に噛み付く犬など要らない。彼の口癖だ。
口に含んだ直後よりも、それはやがて芯を持ったかのように硬度を上げた。
しかし、まだ十分だという訳ではない事をハボックは判っていた。
時間が増すごとに苦しくなる呼吸と胸に広がる嘔吐感。
早く終わってくれ、と願いながら。
目じりに涙をため、息を上げながらも彼は奉仕し続けた。
瞬間。胸に衝撃が走った。
ガッッ、
音を聞いたかと思うとハボックは後方に少し吹っ飛ばされていた。
「がはっ・・・」
胸に走る衝撃から、胸を蹴り上げられたのだと理解した。
奉仕で溜まった唾液と胸を蹴られた衝撃から吐いた唾液が口の端を滑り落ちる。
胸を押さえ蹲りながら自分を蹴ったであろうロイを見上げた。
「ふん・・・やはり男じゃそうそう勃たんな・・・」
蹴り上げたままの体制で。右足を軽く宙に浮かせながらも微笑むロイを。
このとき、ハボックは本気で殺したいと思った。
その目尻に涙を湛えながらも、殺気を遠慮することもなく、睨む。
「いい目だな、ハボック。そちらのほうが私は興奮するよ」
アイスブルーの瞳が殺気を抑えることなくこちらを見ている。
それは戦闘中の彼のような。ライフルを構え、敵を見据える。
何度も対峙したいと思わせたあの瞳のような輝き。
ロイは真実それに興奮していた。
「さぁ、少尉。まだ終わりではないよ」
こっちにこい。
ロイは愉悦と揶揄を多分に含んだ声で命令した。
*
「っう・・・・くはっ・・・」
くぐもった息遣いが断続的に響いている。
ハボックは命令通りに自らの後口に指を突きいれ掻き混ぜていた。
己の唾液を纏わせただけの指のすべりではとても十分に解すわけがなく、
あるのは強烈な痛みと嫌悪感のみ。
乾いた内壁は指の刺激により擦れ、一部は血が滲んでいる様だ。
出し入れする指には赤い液体が微かではあるが付着している。
それでも、ロイにはやめさせる気など到底ないようで。
終始一貫して笑みを湛えたままその様子を傍観している。
「ハボック、もういい。それ以上はいくらやっても同じだ」
その声にハボックは指を引き抜き、床にへたり込んだ。
痛みと嫌悪と疲労。
全てがその身体に纏わり付いて。
「なんだ少尉。その程度でへばるのか?」
対するロイはへたり込んだハボックの傍によると、前髪をつかんで上向かせ、
その額に口付けた。
荒い息遣い。困憊しながらも睨みあげてくる彼にロイは煽られるばかりだった。
ハボックの腕を引き上げ立たせると執務机にまで連れて行き、その上に組み引く。
いつもならバックで犯すところ(男はバックの方が犯りやすいのだ)だが、
今日はその瞳を見ていたいと思った。
自らの性器を擦り上げ、硬度を上げると共に、
仰向けに組み引いた彼の下半身に手を伸ばし、何の反応も示していない彼自身には全く触れず、
後口にたどり着くと指を突き入れた。
「いっ・・・う・・・た、たいさ・・・」
途端に聞こえる呻き声。十分に解されていないことなど判っている。
何度か突き入れてはかき回し、出しては突き入れるという行為を繰り返した。
そのたびに漏れる声が聞き入れられるはずもなく。
後口から指を引き抜くとハボックの衣服で纏わり付いてきた血を拭い、
足を肩に担ぎ上げた。
途端、彼は到来する痛みを予想してか硬く目をつぶった。
それでは、意味がない。
「少尉、目を開けたまえ」
ロイは担いだ足はそのままに、彼の前髪を掻揚げ、優しく微笑んだ。
薄っすらと目を開けたハボックは、しかしその瞬間、凄まじいまでの痛みに絶叫した。
「うあぁぁぁぁ!!」
突き入れられたロイ自身はハボックの内壁に激痛を与えるのには十分すぎた。
例え何度抱かれたとしても挿入時の痛みは和らぐものではない。
ましてやハボックの後口は十分に慣らされてもいないのだ。
彼の顔には脂汗が滲み、机に放り出された手は痛みに硬直している。
「た、いさっ・・・いっ・・・うあぁっ・・」
痛みに見開かれたアイスブルーの瞳。
ロイは彼の顔を視界に収めたまま自分の良いように律動を繰り返す。
ほぐれていない後口は挿入時の僅かな痛みさえ我慢すれば
後は良い締め付けとして奪う側に快楽を与えてくれる。
「はは・・・君の中は、っ・・・気持ちがいいね・・っ」
「かはっ・・うあぁっ、も、やめっ・・」
「やめないよ」
断続的な余りの痛みに意識が遠のく。
意識を失うという逃避に、入ろうと目を細めた瞬間。
「うあぁぁ」
突き上げられる。
「気を失うなど許さん。それでも軍人かね?」
「はぁっ・・・かはっ・・・」
ロイはそれでも笑みを湛えて。快楽を受けながらも醜く溺れる事は無く。
次第に上がっていくロイの息遣いと律動に、ハボックはただ揺さぶられるだけだった。
挿出を繰り返される痛みは最早下半身の大きな痛みでしかない。
叫び続けたのどが痛み出し、目尻に溜まっていた涙はとめどなくあふれ出す。
そして
「・・・出すぞ」
そんな一言を吐いて。
「うっ・・・くはっ・・た、いさ・・・」
ロイはハボックのなかに欲望を吐き出した。
*
執務机に今だ転がったままのハボックは身を清め衣服を整えるロイを虚ろに眺めていた。
前を寛げただけでそう衣服を着崩してもいなかった彼は、
最後に錬成陣の描かれた手袋をはめてハボックの方へと向いた。
「殺したいかね?」
「えぇ・・・」
「殺すか?」
「いいえ・・・逆に俺が死にます」
「良い心がけだ。馬鹿な犬は好きじゃない」
「どうも・・・」
ロイはハボックの汗で張り付いた前髪を撫でてから、その額に口付けた。
とても愛おしそうに口付ける様は先程までの暴力行為が嘘のようだ。
「私の可愛い犬」
「・・・・可愛い犬にこんなことを・・・?」
「ふふ・・・躾だよ」
「そうっすか・・・」
「猛獣は主人へは畏怖の心から従うのだよ」
「・・・そうっすか」
もう一度愛おしそうに髪を撫でてから。
彼は扉へと向かう。
「机は拭いておきたまえ。また、明日。ハボック少尉」
そう言って。退室していった。
一人、執務机に転がったまま、ハボックは目を覆った。
「・・・・詭弁を・・・・」
見初められている。逃げられないと判っているのだ。
fin
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テーマは終始痛いだけのハボ。イカない(悲惨)
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ハボック総受まつりに恐れながら投稿。